被害額過去最悪!「ニセ警察詐欺」にご用心!

SNSやAIを駆使し、手口が巧妙に

2026年4月号 LIFE [INFORMATION]

  • はてなブックマークに追加

「ニセ警察詐欺」に注意を呼びかけるチラシ(警察庁提供)

全国で詐欺被害が急拡大している。警察庁が2月に発表した「特殊詐欺」とSNSを介した「投資詐欺」「ロマンス詐欺」の被害額は、前年比62・8%増の計約3241億円(暫定値)に上り、過去最悪を更新した。

電話やメールで親族や公共機関などを名乗り、ATMやインターネットバンキング(IB)で送金させたり、キャッシュカードを盗んだりする特殊詐欺の被害額は、前年の2倍近い約1414億円に上った。

特殊詐欺の被害で最も多かったのは、警察官を装う「ニセ警察詐欺」で、全体の約7割を占めた。ニセ警察詐欺は「あなたの口座が犯罪に使われている」「あなたに逮捕状が出ている」などと電話し、「潔白を証明するには金銭が必要」と伝え、指定した口座に金銭を振り込ませる。LINEなどのビデオ通話に誘導し、警察官の制服を着た犯人が偽の警察手帳や逮捕状を見せて、被害者を追い込む。

非常に手口が巧妙化しており、実在する警察幹部の顔写真をAI(人工知能)で合成して、ビデオ通話で、あたかも本人が話しているように見せかける事例なども発覚している。末尾が「0110」の警察署の電話番号を偽装する事例もあり、本当の警察からの連絡だと信じ込んでしまう被害者も多いという。ニセ警察詐欺は高齢者だけでなく、若い世代の被害が目立つ。被害者は30代が最も多く、20代、40代と続いている。警察庁は「警察はSNSから連絡することはない」と注意を呼びかけている。

一方、SNS型の「投資詐欺」「ロマンス詐欺」の被害も増えている。著名人をかたり、投資を誘うSNS型の投資詐欺の被害額は前年比約46%増の約1274億円、恋愛感情に乗じたロマンス詐欺も同38%増の約552億円に上った。投資詐欺やロマンス詐欺は1件当たりの被害額が1000万円を超えるなど、被害が高額になるケースが多いという特徴がある。

被害拡大の背景に「トクリュウ」

詐欺被害が拡大している背景には「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型犯罪グループの存在がある。SNSを通じて、犯罪に参加する「闇バイト」のメンバーを募集。犯罪ごとにメンバーを入れ替え、秘匿性の高いアプリで連絡を取り合い、海外拠点から詐欺を指示しているケースもみられる。昨年にマレーシアの特殊詐欺の拠点を摘発した際、日本の警察官の制服や、ビデオ通話で映る姿を偽装するシステムなどが押収された。振込金額の上限などに左右されないIBなど非対面型の生活様式が定着したことも被害が拡大している背景にある。

警察庁の楠芳伸長官は2月に開いた記者会見で「極めて危機的な状況で、これまでの延長線上ではない対策が不可欠」と述べ、対策を強化する方針を示した。

その一環として、金融庁や全国銀行協会(全銀協)と連携し、官民一体となって、詐欺被害を防止する取り組みに力を入れている。メガバンクなど約30の金融機関と「情報連携協定」を締結。詐欺の疑いが高い取引を警察と情報共有し、被害拡大を防ぐ「AIモニタリング」を導入した。犯罪に使われた口座リストを警察庁が作成し、全銀協を通じて、各銀行に提供することで、既存口座の凍結や不正口座の開設防止を徹底する取り組みも行っている。

昨年4月に政府は特殊詐欺や闇バイトなどの犯罪を根絶するため、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」を策定した。詐欺のダイレクトメッセージが届く前のフィルタリングや不審なサイトへのアクセス時の警告、国際電話番号からの着信を拒否するシステムの普及や、本人確認のチェックを強化する方針を示した。政府は口座の不正利用対策を金融機関の最も重要な経営課題と位置付ける。

犯収法改正で本人確認を厳格化

具体策として、マイナンバーカードを活用した公的個人認証サービス(JPKI)の普及に力を入れている。従来の本人確認書類のコピーなどアナログな手法を廃止。マイナンバーカードのICチップに記録された「電子証明書」を直接読み取り、「なりすまし」や「データの改ざん」を防止するサービスで、現在、各金融機関で移行が進められている。メガバンクでは、三井住友銀行が24年2月に初めてJPKIによる口座開設を開始した。

27年4月には犯罪収益移転防止法(犯収法)が改正施行される。銀行窓口で口座開設する場合の本人確認はマイナンバーカードを活用したICチップで読み取る方法が原則義務付けとなる。IBなどの非対面取引も原則としてマイナンバーカードの利用が義務付けられる。「口座の不正利用対策は、ここで大きなゲームチェンジを迎える」(金融機関関係者)。ICチップを活用すれば、書類偽造は難しくなり、詐欺被害防止で、大きな効果が期待できるという。

一方、地方自治体も詐欺被害防止対策に乗り出している。大阪府は23年に特殊詐欺の被害件数が過去最多となった。被害の約85%が高齢者ということもあり、吉村洋文知事が対策に乗り出し、昨年8月に「安全なまちづくり条例」を改正施行した。65歳以上の高齢者がATMを操作しながら、携帯電話で通話することを全国で初めて禁止した。罰則規定はないが、周囲の人がATM内で「条例で禁止されていますよ」と声かけをしやすくすることで、被害を未然に防ぐ狙いがある。

昨年10月からは、3年間ATMで振り込みをしていない70歳以上の高齢者の振り込みを1日10万円以下に制限している。こうした対策の効果もあり、25年の還付金詐欺の件数は速報値で、前年比約5割減、被害額も約5億円減少した。大阪府治安対策課の濱岡亮課長補佐は「警察、行政、企業が一体となり、オール大阪で、1件でも被害を減らしたい」と意気込む。大阪府の詐欺被害防止対策がうまくいけば、全国に広がる可能性もある。

特殊詐欺は対策が強化される度に手口が巧妙化する「いたちごっこ」の側面がある。ICチップを活用した口座の不正利用対策や大阪府の条例など従来と異なる官民一体となった対策で、拡大傾向にある特殊詐欺に歯止めがかかることを期待したい。

(取材・構成/副編集長 黄金崎元)

  • はてなブックマークに追加